「でも、玉兄・・・。」
太乙は言いかけて止めた。
「どうした?」
太乙の顔は無表情に呟いた。
「やっぱり友達にはなれないよ。」
「・・・・。」
玉鼎は太乙の揺れて光る瞳を暫らくみつめ、そして目を伏せた。
太乙には友と呼べる人間が殆んどいなかった。幹部候補の道士として幼い頃に仙界入りをしていた太乙だが生来
のプライドの高さと学問に置いての天才的な才能が人を遠ざけていたのだ。
太乙は幼道の頃。ある程度まで女仙の住む洞府で乳母の女仙女と穏やかに暮らしていた。太乙のどこか女性的
な物腰や仕草はその所為かもしれない。しかし、それ以上に整った容姿のおかげで玉虚宮に移って間もない頃は、 道士達のからかいの的になった。
玉鼎はその時、元始天尊に命じられた事もあり太乙の兄弟子として何かと面倒を見てやっていたのだ。そして、太
乙も玉鼎を本当の兄のように慕っていた。
「でも私は玉兄がいてくれるなら。それでいい。」
それを聞いて玉鼎は苦笑した、それではいけないのだ。そう言いたい気持ちを抑えると深く息を吸った。
「太乙。道徳がそれを聞いたらきっと怒るぞ。」
「そうかな・・・。」
「そうだな。少なくとも道徳はお前を友達だと思っている。」
「道徳が言っていたの?」
「先刻な。」
・・・・『先刻』・・?
「・・・え?って言う事は玉兄はさっき道徳に会ったって事?」
「そうだ。これを渡してくれと言われてな。」
玉鼎が取り出したのは『仙薬』と書かれた薬袋であった。
「・・・えっ私に?」
「また一緒に稽古しようと言っていたな。・・・道徳はいい友達だと思うのだが?」
玉鼎から薬袋を受け取ると。太乙は困ったような怒ったような、妙なしかめっ面をして薬袋を広げた。中には仙薬と一
緒に数個の飴玉が無造作に投げ込まれていた。
「・・・・変なヤツ。」
「不器用なのはお前と同じだ。」
玉鼎が微笑んだ、玉鼎の言葉に太乙は。
「私は器用だよ・・・。」
と言って抗議する、
「ああ。そうだったな。」
玉鼎は苦笑した。
太乙のその手にはしっかりと薬袋が握られている。
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