v i s i o n vol,1 next 「うむ・・・面白い試みではありますね。 玉鼎は顎に手を当て頷いた。 「では玉鼎、その運びで頼むぞ。」 燃燈は言った。 * 「でぇぇい―― !! 」 道徳の勢い良く振り下ろした剣先が相手の腕に見事にヒットする。 「っ痛――――! ま・まいったぁ!」 痺れた腕を庇いながら相手の道士は降参の合図をする。その間髪入れず、既に次の攻撃態 勢に入っていた道徳の剣先が相手の正面を切って振り下ろされた。 「うわぁああああ!」 その瞬間、避けきれないと悟った相手は半ベソになりながら、断末魔とも言える奇声を上げて 立ち尽くす他なかった。相手は もうだめだと道士が蒼白になる。 しかし、道徳の剣先はぴたっと顔面皮1枚で止まり、相手はへなへなと腰を抜かした。 その後から薄っすらと血が流れ落ち道士は己の血がぽたりぽたりと足元に落ちたのを見てフ ラリと後へ倒れてしまった。 「あー悪い悪い、大丈夫か〜?」 道徳は暢気に笑いながら倒れた相手の顔を覗き込む。 相手の方はというと、白い目を剥いて当分起き上がれる様子では無かった。 道徳が仙人界に上がったのはちょうど十五歳を迎えた頃だった。幼道としてはやや年長、燃 燈の直弟子として仙界に入った。 燃燈は厳しくも尊敬できる人物で道徳は彼の期待を受けた。その期待に応え、道徳は幼いな がらも5年足らずで戦士としては道士の中でも抜きに出ていた。 「道徳!」 燃燈は威厳ある声を響かせて彼を呼んだ。 「はい!」 その声に呼応するかのように素早く返事を返すと、 道徳はで師匠である燃燈の元へ駆け足でやって来た。 「何でしょうか。」 師の元には叔師に当たる玉鼎も立っていた。道徳は玉鼎に向き直り一礼をして 「こんにちは!玉鼎師弟、後でまた俺の剣の相手になってもらえませんか?」 と言って明るく微笑んだ。それにつたれるように玉鼎も軽く微笑むと 「道徳、相変わらずだな。だが今日は別件で来たのだ。」 そう言いながら後方をちらりと見た、道徳は玉鼎の後で見知らぬ誰かがこちらを窺っていると いう事は気が付いていたが、それが誰なのかは判らなかった。 背の高い玉鼎の影からスッと姿を現したのは自分と同い年、いや、もう少し年下かと思われ る年頃の娘だった。整った輪郭の中に二つの翠玉石がきれいに収まっており、絹のような黒髪 は肩できれいに揃えられていた。日頃、無骨な戦士ばかり見ている道徳にとっては眩しいばか りの立ち姿である。 「・・・初めまして。元始天尊様の直弟子、太乙と言います。どうぞよろしくお願いします。」 彼女は落ち着き払ってスラスラと挨拶をすると道徳に手を差し出した。予期せぬ行動に道徳 は慌てて、自分の泥で汚れた右手を服の裾で拭ってから握手をした。彼女は完璧な微笑で道 徳にほほ笑みかけた。 「太乙、紹介しよう。彼は道士の中でも戦士としてはかなりの腕前だ。それにお前とは歳も近 い、お前達は能力にムラがある。それぞれの得意分野でお互い学ぶ所が多いはずだ。」 その言葉に続いて燃燈も道徳に事の詳細を伝えた。 「道徳。太乙は科学部門で優秀な成績を残している、だが武道についてはまだ至らぬ。お前の 方は武道に優れているが逆に文学に置いてはやや不安が残る。お互いの長所を学び合えば きっと良い結果を生むだろう。そういう事だ。お前達には私も期待しているのだ。」 しばし太乙のほほ笑みに甘い痺れを受けていた道徳は半ば惚けて燃燈の説明に『はぁ…』と 生ぬるい返事しか出来なかった。 「道徳?何か問題でも有るのか?」 その様子を道徳が何か不満に思う所があるのだと解釈した玉鼎が問い掛けてきた。 「え?いいえ!全然ありません!」 我にかえった道徳は思わずカッと赤くなって俯いた。 「・・・えっとあの、でも・・・。」 口篭もる道徳に燃燈は眉を寄せて 「何だ?不服か?」 と、半ば脅しとも言える低い声を出した。 「いえ!全然!」 恐ろしさと恥かしさでぶんぶんと頭を振ると 「俺なんかで良ければ!こちらこそよろしくお願い致します!」 道徳はピッチリと太乙の方へ礼をした。 太乙はその様子を見て思わずフフッと笑いを漏らした。その可愛らしさに道徳は頭を下げたま ま耳まで赤くなるのを感じた。 「早速だが…太乙は槍使いでな、剣も槍も間合いは違うが武道には変わりない。ここは一つ、 太乙に稽古をつけてやってくれまいか?」 玉鼎が固まったままの道徳の肩に軽く手をかけて告げた。 「・・・はい!」 道徳は度々玉鼎に剣の稽古をつけてもらっている、玉鼎は道徳の尊敬する剣士でもあるの だ。その人物に頼まれるという行為自体が道徳にとってはそれだけで誇らしくて嬉しかった。 道徳は嬉々として少し高台にある闘技場へ太乙を連れて歩いた。 「お手やわらかに頼むね・・・。」 並んで歩く途中で太乙はこっそりと道徳に話しかける。 そのどこか中性的で少年めいた声の色香に道徳は息を呑んだ。 bakc next |