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〜信州信濃の新そばよりも、あたしゃあなたのそばが良い〜

 

席に着くと、そば茶を置いて店員は去る。あれ?猿だったっけ?

注文が決まり店員を呼び、僕はまいたけ天ぷらそば、アネ様は天ぷらそば定食を注文する。

注文が終わってから出されたそば茶を飲む。と、アネ様のそば茶の中に虫が混入していた。わお。

「なんか虫入っているんですけど…」

「いつもはゴキブリを仕込まれるのに、今日は小さめの虫を入れていちゃもんをつけれるわけですか」

「さすがにお茶の中にゴキブリだったらばれるでしょ?って入れてませんよ」

「はいはい、じゃあそれ、僕が飲みますから」

「いいですよ。新しいの持ってきてもらいますから」

「じゃあ店員さん呼ぶよ、すいませ〜ん」

緩慢なスピードで店員が来る。

アネ「虫入ってたんですけど」

店「あ、そうですか、すいませんでした」

とだけ、たいして申し訳なさそうにもせずにコップを持っていきやがる。

アネ「何?あの態度?フジハラさんよりむかつく」

「だね、って、僕むかつかれてたの?ほんじゃあまあアンケート用紙にぐちを書いときますか」

「めんどうです。私帰ってからクレームの電話を入れます」

「あらら、そうなん。でもとりあえず僕はこの紙に書くよ」

アンケート用紙に書き込んだり、クリニークでもらったものをみたりして、取替えに行ってからかなり長い時間が経ってから、店員がまたもや大して申し訳なさそうにせずにコップを持ってくる。せっかく楽しく食事しに来たのにアネ様の機嫌悪くなってんじゃん。どうしてくれるんっすかぁ〜。

「まあ、いいじゃない、気にせずいきましょう」

「あの店員、クリスマスに何の予定もないからいらだってんじゃなくって?あんな感じじゃ仕方ない気もするけどっ」

とか言っているうちに料理到着。食べる。

僕「料理の味はどうですか?」

アネ「普通においしいです」

って、山菜御飯を食べられながら、ムスっとされながら答えられる。

「これで食事もまずかったら、かなり不味いですから、とりあえず良かったです。僕このまいたけの天ぷらがすっごい好きなんですよ。天ぷらの中で一番好きかもしれません」

「へぇ〜(がつがつ)」

「でもクリスマスの夜にそばっていうのも、なんだかなぁって感じですよね」

「そうですね。でもイブにそれっぽいの食べたから良かったんじゃないですか?」

「ですね」

「それに年末会えなくて、一緒に年を越すことができないんで、これが年越しそばってことで」

「僕はいくらでも会いに行きますけどね」

「私が会いたくないっての!」

「見つめられると、石になっちゃいそうですものね」

 

食事が終わったあたりになってから、

アネ「あの〜、このことはあまり言いたくなかったんですが」

「(ぎくっ、なんかまたぼくの不手際があったっけ?)な、なんのことでしょう?何で言いたくなかったの?」

「昨日のことなんですが、これ言うとフジハラさんが調子づくと思っていいたくないんですけど…」

「なになに?どんなこと?」

「昨日スーツで来られてたじゃないですか、あれ、すっごい似合ってるなあって思いました。こんなにスーツの似合う人みたことないって。でぇ〜、正直、かっこいいなって思いました、きゃは(笑)」

「(笑)今の言葉でこ〜〜んなに鼻が高くなったよ」って、にゅーっと鼻が伸びる仕草をする。

「そういうことしなければいいんですけどねぇ(ため息)」

「あはははは。そう、スーツ似合っているんだぁ。そういえば、塩野七生さんがどんな男が好きかって聞かれたときに「タキシードの似合う男」って答えられてます。理由として「ジーパンの似合う男が必ずしもタキシードも似合うとはかぎらないが、タキシードの似合う男は、絶対にジーパンも似合うからです」って。大きくくくりすぎかもしれませんが、タキシードもスーツも似たようなだと思うんですが、なら僕はなぜジーパンが似合ってないのでしょう?やっぱ持っている服のセンスが悪すぎなんかいね?それと比べるとスーツだとまだ見れる、みたいな。特にスーツが似合うわけではなく。」

「そうかもしれませんねあ、ところでこれからどうします?」

「カラオケ行きたかったんだけど、割引券は土曜日使えないんだよね。どうしましょ?」

「私は良いですよ。酒とタバコのせいで声がいい感じにしゃがれてますけど」

「あ、喉の調子よくないんだ。ならまた今度にしますか。僕もそんなに喉の調子がいいってわけじゃないし」

ということでこの日はそのまま帰ることに

 

僕「ところで最近気がつくと「ごめんなさい、ごめんなさい」、って謝っている自分がいるんですけど」

「まあ、フジハラさんは存在していること自体が罪みたいなもんですけどね」

「あ、女泣かせの罪な男って?」

「そんなポジティブな意味じゃなくって、キリスト教の原罪みたいなもので」

「はあ。まあいいんですけど」

「えと、で、誰に謝られているんですか?」

「特定の誰かっていうのではなく、世の中かな。なんか変なことをやってしまうとごめんなさいって。道走っていて、すれちがった人に謝ったりもしましたけど、基本は世の中っすね。なんなんでしょうか?」

「なんか強迫観念にかられているんでしょうかね。やっぱ精神科にいったほうがいいですよ」

「そうですかねぇ。僕っていう人間はそういうところに通っている人よりも良くない状態なんじゃないかってたまに思いますけどね」

「あ、やっぱり?」

「…クスン。で、“なんか変なこと”っていう判断をしているのは自分な訳だから、謝っている対象っていうのは自分の中の一般的な常識、良識なのかもしれないなって考えました」

「え、常識なんか持たれてたんですか?」

 

などなど話していると家についたのでお別れ。

アネ「それじゃあ29日よろしくお願いします」

「いやいや、こちらこそよろしくお願いします。また前日に何時になるか正確なとこ決めよっか」

「はい。それじゃあ気をつけて」

「はーい」

 

28日夜へ