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その後「その子」と2人で少し一緒にいる時間があった。いつもはBGMをかけているけれど、終わりが近づいているためか、なんとなく無音空間ですごす。僕の耳に入るのは「その子」の声だけ。しばらくその声に耳を傾けていると、今までの思い出が思い返される。声の端々に、「わたしはまだまだいけるわ、捨てないで」という感情が含まれているように感じられた。で、やはり気心が知れているせいか、いっしょにいる時の気楽さがとても心地よく感じられ、一度は別れようと決意したものの、やっぱこのままでいっか?と感じた。無理やり別れることもないだろうって、終わる時は死別しかないかな、って。で、16日になって先様へ連絡をする。
「すみません。良い返事をするだろうっていうちょりましたが、やっぱなかったことにしてくれません?」
「やっぱり?」
「あ、わかりましたか?」
「うん。だってまだいけそうなんでしょ。」
「まあ、いろいろありますけど、まあいけるっちゃいけそうですね」
「でしょ、どうせなんだからダメになるまでいっしょでいいじゃないって私は思ったんだけど、ちょうどキミのタイプにぴったりの子がいたんで主人がどうかって言ってたんだ。」
「すみませんでした。ご足労かけまして」
「いやいや、いいっていいって。」
「じゃあ、本当にダメになった時にはまたよろしくお願いします」
「はいはーい。じゃあね」
電話を切り、車のシートに深くもたれていた体を起き上がらせて、
「まっ、そんなわけでもうしばらく、じゃなくて長いほうがいいけど、とにかくよろしく」
って、その子に挿したキーを回す。
「きゅきゅきゅ、ぶる〜〜ん」
「おや、今日は機嫌がいいね」
ハンドルを握り、その子のエンジン音に包まれながら家に向かって走る。
「竹仲絵里の切り抜きを落札してなかったら、ひょっとしたら、キミを買い換えてたかもね」
「ぶおっ、ぶおっ」
少し機嫌悪いエンジン音になったような気がした。
終わり